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2 ホントはロマンチック?
y・それでは、今回の主題であります行雲流水の曲「octopus hold」に話を移したいと思います。この曲の楽譜なんですが、僕の手元にあるのが最新版のそれで、実際に録音の際に使ったものはこの前の版に当たるものだそうですね。前回の「noon nap nude」もそうでしたが、譜面自体がどんどんバージョンアップされていってるようで、今日は「octopus hold」の最初期の楽譜から録音当時使ったものまで、すべてお持ちいただいているということなので、これを使って解説をお願いいたします。 t・わかりました。まず、読者の皆さんが前々回の対談も読まれているという仮定でお話し始めさせていただきますと、とてもスムーズに説明が出来ますので、そのような想定でやらせていただきますね。というのは、同じタイトルを持つ曲なのですが(バージョンが上がるに連れて)ほとんど同名異曲と言っても良いほど曲が変化していきます。前回は「noon nap nude」という曲でやはり、ある変遷を辿った一曲というものの過程のそれぞれを区切ってお話させていただいたんですが... y・両方とも演奏方法は似てるの? t・どうかな...。まあ、まずタイトルからいきましょう。「octopus hold」というのは、実は卍固め(※6)です(笑い)。 y・あー...。 t・大の猪木ファン(※6)ではありますが、いきなり曲タイトルに「卍固め」と名づけるのもアレだと思いまして(笑い)...。えー、「noon nap nude」から話を引き継ぎますと、様々な楽器が混じる中で、どうしても生じるピッチのずれが如何ともしがたいと。それぞれの楽器がメロディーを奏でるときになんとも腑に落ちない。特にピアニカという楽器を多く使ってしまっているので、どうしよう、ということがまず気になることとしてありました。 y・楽器の特性上、皆のピッチが合わないと。 t・はい。そこで、この問題をギリギリ回避しつつも、ただ一音を吹かせるということではなく、やはり何か展開させてみたかった。そこで、様々な音がぶつかるのを最少に、かつふくらみを持たせるものとしてオクターブ奏法というんですかね、周波数でいけばただ倍になったり半分になったりということですが、同じ音名がついているものであれば響きとしては一番素直に響くんじゃないかと思ったわけです。そこで、こういうものすごいシンプルな事をまずやってみよう、ただ一音じゃもの足りないけれどオクターブがあったら上へ下へ行くことで和声的な広がりを持てるのではないかという... y・ああ、それはごまかせるということですね。ピッチのずれを。 t・そうです。一種類の楽器、ただ一音でも、ここからオクターブを使うということにおいて二つ以上の音を操れる。ピッチそのもののずれは変わりませんが、楽曲というかアンサンブルとしては、展開が作れてかつ統一感は保ちつつ、全体の(ピッチの)ずれは気にならないかな(要は同じ音ですから)、というのが狙いでした。じゃあ、やっぱりオクターブの曲だね、ということで内容は決まったので、そこから先、タイトルに関しては駄洒落の世界ですね。オクターブということは8度、八つ違うんだから...ということでタコ足8本、オクトパス。オクトパスって単語だけをそのまま日常で使ってるの聞いたことないけど、そういえば、卍固めを、出たっ、オクトパス・ホールド!と絶叫したアナウンサーがいたっけなぁと思い出しまして(笑い)。 y・しゃれか。 t・...はい。えっと、で、一番最初、初期型(※7)ですね。これから始めます。今ご覧になっていただいている2000年の一番古いものはパートをまず四つに分けまして、これも「noon nap nude」の時から続いているんですが、持続する一息というフィジカルに拠ることに興味がありましたので、パート1は一つの音をビューっとできる限り伸ばす「noon nap nude」にもあったあのパターン。で、パートの2はそれを真ん中ぐらいでオクターブアップさせる、ボ〜途中からピ〜と上がると。息の続く半分くらいで上がってみてね、ということをさせる。3番目は一回上がって下がってきてね、と。ボ〜、ピ〜、ボ〜という感じ。4つ目のパートはそれを二回繰り返したらどう、ということでした。ボ〜、ピ〜、ボ〜、ピ〜ですね。 ※7 ![]() クリックで拡大 y・例えば、このパターン3の人は三拍子を刻めっていうことですか? t・いえ、まったく関係ないです。 y・均等じゃなくても良いんですね。吹くタイミングは。 t・そう。一息の続く範囲内で一つの音を出すか、途中でオクターブ上げるか、一回上げて下げるか、二回上げ下げするか、を、一息続く中でやってごらんよ、と言う話ですね。 y・あー、一息というのが尺なんだ。 t・はい。「noon nap nude」のときにもありましたが、こうすると自然にそれぞれの息の長さが違って同じ一つの音を出していてもオクターブの響きは、別々のタイミングで上がったり下がったりして与えられるので、何かこう、それでメロディアスに聞けやしないかなと。で、それぞれが任された一つのパートをやり続けるのはさすがに厳しい、というか飽きちゃうので、この1、2、3、4、全パートを順番にやっていって(スタートするパートは別々のところから、と割り振ったりはしてました)一曲、あるいは一回り、という形にします。この最初期バージョンは、全員一斉にそのとき任意に決めた一つの音で演奏します。例えばドなら全員でドとドのオクターブだけ。だからやっぱり「noon nap nude」と近しいところにあったのかな、興味の対象は。一息と、その自然発生的に出てくるずれと、あとはその響きの悪さを解消するためのごまかしの一音のみってことと、ちょっとした展開(音楽的な広がり)のためにオクターブを行ったり来たり、ってとこでしたかね。これが2000年の版です。で、ここからまさに「noon nap nude」と同じような軌跡をたどりまして、だんだん実践を積み重ねて... y・これはまだ録音時のバージョンではないんですよね? t・全然違います。まだまだ。ここからさらにバージョンアップをして、ちょっとは音楽的な形に持っていきたかった。でもね、今こうして、むかーしの版を見て思い出すのは(記載されてはいませんが)なぜか最初から、ソの音を使っていたような気がします。 y・高橋さんの使うG(ソ)、B(シ)、D(レ)というのは、これいつものことで、何か重要なものがありますね...。先をお願いします。 t・(笑い)で、バージョンその2(※8)。翌2001年に書いた曲は、やっぱり全員で一個の音のオクターブで上がったり下がったりしているのは、どうなの?って言うのが普通に出てきて(笑い)、まあ、飽きちゃいまして、じゃあ、(音を)三つぐらい使ってみる?っていうことになりました。ここでもたまたま、任意に選ばれたに過ぎない(はずなのですが)、コードで言えばGのコード、ソ、シ、レという音とそれぞれのオクターブを使って、やっぱり上げたり下げたりをしましょうか、という話しになりました。この段で、ちょっと変わってきたのは、このオクターブの上げ下げ(のタイミング)は、好きにどうぞ、という形にしたことです。最初はできるだけ伸ばして、その次は途中から上げてなんてことはせず、自分で好きなだけ、行ったり来たりしなさいよ、と。さらに、この三つの音のどれでも自由に使って(行き来して)良いですよ、って。 ※8 ![]() クリックで拡大 y・これ何回繰り返すとか、そういう規制もなかったんですか? t・何もなかったですね。 y・あら、ゲーム性が低いですね。 t・ここね、低いですよね。多分単純に言って(前のバージョンに)飽きただけなんでしょうね。やることや音数に物足りなさがあったんでしょう。なので、ここでは、3種類の音とそのオクターブを出している複数の人がいるってだけのことになってます。1から3へ、音の種類は増えたんですけど、その3種類の音とそれぞれのオクターブをピーボーピーボーしながら、ぐるぐる回っていくのみということになってます。 y・それ何回繰り返してもいいんでしょ、オクターブをチェンジするタイミングも任意なんでしょ? t・そうです。次の音に移るってことですが、それはいつ変わってもいい。 y・ほうほう。なるほど。 t・ただ、ある一音を出している途中で、そのオクターブの上げ下げのタイミングをいろいろと変えちゃダメとは言ってましたね。つまり、例えばソの音を使ってオクターブの上下を演奏しているときには、そこで反復するスピード、振幅の時間軸を急に変えちゃダメ。等分のリズム、一定のテンポでね、とはしてました。 y・あー、振幅数を変えたいんだったら、次の音に移ったときに変えろと。 t・そう。次の音に移行しようとするときは、パッセージのように急激に速くしていくとか、極端にゆったりしてくるようにするのではなく、パッと飛んで、音程が変化すると同時に反復リズムを変える。ただしそこに移ってもすぐ一定の振幅数を、で、途中で変化はさせないでねと。反復のスピードを変えるのなら、音を変えるときにね、という指示でした。これがバージョンの2ですね。今から思うと、これ(このバージョンでの演奏)はあんまりやらなかったような気がしますね。ゲーム性が低かったからでしょうね。(演奏していて)適当にどうにでもなっちゃう感じがあったんでしょう。つまり、音の種類は増えたけど、それをどんどん変えちゃうことばっかりに気をとられてしまっていたからかな。 y・高橋さん的には複数の人間によってオクターブを循環させてみると、どのように聞こえるのかという興味だけがあったということですね。 t・ええ。ただ3音に増やすことで、イメージとしては、森の中で鳥たちが銘々の声の高さと反復数でもって鳴いているという... y・(爆笑)あったんですね、そういった、ロマンチックな動機が。ゲームになる以前に、その動機に惹かれ続けていたわけだ(笑い)。 t・カッコウ、カッコウ、なんて感じでですね(笑い)。誰にも言ってませんでしたけどね。 y・そういう話を聞くと、ある意味安心する部分もあるんですが(笑い)。 t・ねぇ。ふっと森の中にさまよい込んだときに、あちこちから鳥の声が聞こえてきたら、どう?なんてですね(笑い)。で、2002年にバージョン3(※9)に上がります。これです。これが録音した時のものです。 ※9 ![]() クリックで拡大 y・カッコーの話を引きずりませんね。え?あっ、はい。なるほどなるほど。 t・(笑い)ここでやっと、ゲームの気持ちを取り戻しております。それと先ほど洩らしましたメルヘンチックな動機に対しても演出的なアプローチを試みています。これが録音に臨んだバージョンですね。イメージだけのものではあるのですが...ある演奏者がある曲をある聴衆の前で演奏するとき、誰も最初は楽器から音を出していないところが必ずある、つまり無音状態です。この無音を意識しようというところが、新しいバージョンの「octopus hold」のスタートとなります。このセンターの白いワクがそうなんですが、心を鎮めるというか、森に入って耳を澄ましている状態とでもいうんでしょうかね...。 y・今すでに、この楽譜の読み方についてお話いただいているんですね。 t・はい。根本的には(今までと同じように)黒ワクの中に描かれたG、B、Dの音の反復だけです。ちなみに、これを自由に繰り返せということは、ただG、B、Dの記号を示すのみにして細かな説明は省いてあります。 y・G、B、Dのどこにいても良いのだけれど、自分がGの音と書かれたワクのところにいるとすれば、Gの音のオクターブを反復しなさいということですね。 t・そうです。任意で構わないけれど、一定のスピードで、というところは前(のバージョン)と同じです。そして移行方法に関してはですね、以前のバージョンのときは、パッと次の音に飛んでいくわけです。例えば、ソとそのオクターブをボ〜、ピ〜、ボ〜、ピ〜と反復しているところから、にいきなりレに行って、ボ〜、ピ〜、ボ〜、ピ〜。次の音に移るときには、なんの前触れもなく、はたと変えてよかったルールです。が、いやいや、いきなり次の反復パターンを何の脈絡もなく一気に飛びあう三角形ではなく、ワンクッション入れたいと思いました。で、これがグレーのワクの部分となりました。このグレーゾーンで何をするかと言ったら、自分で吹いてる反復のリズムパターンをキープしつつ(音は出しながら)、自分以外の演奏者たち、彼らはまたそれぞれの反復リズムを奏でていますが、その中の誰か、どれかの音にターゲットを絞って、その決めた標的と同じ反復リズムパターンに一度寄り添ってくれよ、つまり次の音に移行するとき、一気に飛ばず、まず一呼吸おいて寄り添ってみてくれ、というのがグレーの部分です。 y・さー、みなさん、ここまでの説明で、どんな音が鳴るのかイメージできますでしょうか。じゃあ、ここで「octopus hold」を聞いてみましょう。(※10) ※10 octopus hold >> 1 2 >> 3 >> 4 |