第3回
明日も変わらない


1 曲の切れ目と見なすもの


t・さて、いよいよアメフォンのトラック登場です。アルバム「ESQUISSE3/3」の冒頭を飾る行雲流水の「noon nap nude」から、この2曲目「明日も変わらない」へ。言いたいのは、この2曲の流れは気持ちいい!ということだけなんですが、曲順って全然考えていなかったんでしたっけ?

y・曲順どうでしたかね...まあ、〔行雲流水とアメフォンのトラックが〕交互に出てくるようにとは考えていたと思いますが...

t・あ、そうでした。とにかく抜群に気持ちいい。やたらスムーズに音楽が流れていくんですよね。

y・なんか妙にはまってましたよね。別にあそこまでシックリはまってくれる必要はないんですけどね〔いずれにしても、スムーズな進行というのは危険です。出来事から差異を奪います〕。

t/大体「noon nap nude」が3分ぐらいの曲なのかな。「明日も変わらない」は倍の6分ぐらい。「noon nap nude」は8小節を繰り返しているだけのミニマルな構成のせいか長く聞こえはするが、実はトータル3分ほど。で、「明日も変わらない」は〔構成が〕壮大な曲で、歌が出てくるまでで3分ぐらい。つまり1曲の半分にもなる長いイントロがついている。にも関わらず、なぜか曲自体そんなに長くは感じない。というのも、このイントロは「noon nap nude」とその後にくる歌の部分とをスムースにつなぐためのパートにも〔そう勝手に解釈して〕聴こえちゃう。つまり「noon nap nude」と「明日も変わらない」の2曲を1曲のように聴かせる共有パートのようでさえある。としたら、この曲順の理由、かつこの気持ちいい流れを生み、長さを感じさせないわけが分かるような気がしたんですが...。

y/この曲はコラージュ作品で、形式的なつながりは持たない三つの部分から出来ている。歌の入ってくる場所は全体の第三部に当たるわけです。それ以前の第一部、第二部は別にイントロというわけではないんですよ。

t/そうでしたね。いや、第一回目の対談にもありましたがアメフォンの曲はポップスとしての扱いだと。その文脈でいくとリフレーンされるフレーズ〔ギターが奏でる第三部冒頭〕の後に歌が入るのは王道かと〔ゆえにその前はイントロになると〕思いますが、今のお話を聞くとその前の部分〔第一部と第二部〕がかなり独特なものとなりますよね。

y/確かに楽曲としては独特な形式を持っていますね。あの部分をイントロとしたくなる気持ちもわからないではありません。そうでない〔イントロではない〕としたら何なんだ、という疑問はうっとうしいものでしょう。自分としてはストーリーラインをもとに曲を作っているので、それに忠実に作業を進めていくと、ああなるとしか言えないのですが。そのストーリーというのを単純に説明いたしますと...

t/そのストーリーは歌詞でもって表現されているというわけではないんですよね?

y/音楽としてですね。脚本みたいなものとしてありつつも、音楽だけでこのストーリーを表現するわけですからリスナーには隠されているわけですね。これは作る側のモチベーションに過ぎないと言ってもよい。で、それを簡単に説明しますと、山から麓の町まで下りてくる、というだけのものなんです。

t/ちなみに、どなたが?誰がおりてくるんですか?

y/えっ?それは...(笑い)。映画じゃないので登場人物については定かではありませんが、山の頂から、中腹、そして麓の町、この三つの場面が表せればばよい、表現したいということだったわけです。

t/カメラのショットということをお考えなのでしょうか?

y/ええ、ええ。そう、だから作品のストーリーというよりテーマですね。映像へのあこがれというのはあります。しかしそこに頓着しすぎると、わざとらしい方法に行き着いてしまうような気がしますので、あてはまる音楽的ムードを探りつつ、見えてしまうものは見ておく、と。〔アイディアの段階での〕映像と音の関係については、ボブ・ディランが、歌が先か歌詞が先かと問うインタビュアーを一喝する時の気持ちに似ていると思います。それは同時に現れました。

t/第一回の対談でも出た話題ですが、曲作りにおけるコンセプトあるいは作曲のためのモチベーションとしてあるストーリー作りに関しては、強くアピールしたい部分ではないというわけですか。

y/ええ、聞こえないものを強調しても意味ないですからね。ただ僕なんかでも、例えば政治に触発されて曲を書いてしまうこともあるんです。「紅い橋」が実はそうなんですが。そういう場合も内側に沸き起こったメッセージ性を如何にして隠すかに注意深くなる。また当然、最初からファンタジーにどっぷり浸かって、その時のムードを何とか音に出来ないかと手を動かす場合もしばしばです。この曲に関しては、まあ後者でしょう。

t/山を下る、というムード?(笑い)

y/ふふふ...。それから、「明日も変わらない」制作の動機を別の側面からお話することも出来ます。この曲の制作に入ったのって、アルバムを通して一番最後だったじゃないですか。8曲中7曲出来て、この前に「虎」という大曲〔京劇をモチーフに使ったアメフォン流オペラ〕を何とか録り終えて、あと1曲準備しなきゃという状態でした。で、振り返ってみるといかにもなコラージュ作品が無いな、ということに気がついたわけです。なんか変なことしてないと、お客さん喜ばないんじゃないかと思いました。

t/そこはこだわりがあったんですね(笑い)。

y/こだわりはないんです。ただのマーケティングです。人の作品を手伝うときでも、今まで必ず数曲は具体音を楽曲中に挿入したりして、そういうコラージュの方法論を皆期待しているみたいだし、僕としてもなるたけ需要は満たしたほうが良いと思ってる。ただでさえなけなしのお客さん達ですから。「ESQUISSE 3/3」ではフィクションのレベルを一段階上げて、例えば京劇だったらその形式をできる限り忠実に再現して〔あたかも本物であるかのように聞かせて〕誰が、何時、何処で、なんのために、といった作品作りのための暗黙の了解事項に全て?マークがつくようにして発表してみたかった。そうすることで、オーディオ作品の持つ不思議さ、『あそこで発せられた音を今ここで聞くことが出来る』というこの装置の持つ本質的な不気味さのみを、純粋に示してみたかったわけです。つまりここまでの段階で出来上がっていたアメフォンのトラックは、〔それこそ京劇などの〕耳慣れない形式を使っているかもしれませんが、非常にオーセンティックに一曲として聞けるものばかり並んでいたということでした。それこそ、通して歌えてしまうような、まあ、ソングですね。

t/なるほど。

y/あと、コラージュの手法で1曲という話に戻ると、なにぶん「虎」で消耗しましたので、個人的に。作曲の時間に突入する気力体力がありませんで、大きなリハーサルを持つのもちょっと無理そうだったし、モチーフの寄せ集めでパパッと作りたかったんでしょうね、おそらく。

t/能率的、経済的効果も少しは見越したつもりであったと。

y/結局、各パートにおけるリハーサルは持たざるを得なかったし、そこそこ時間はかかりましたけどね。

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